もうずいぶん昔、といってもキャスティングは音響監督の意向が絶大!というほどの昔ではない頃のこと。
あの日もクリスマスだった。
とある原作ものの主役を決めるのに、オーディションをやった。
日常的にオーディションはあるので、特別なことではなかったけれど、そのときは原作者がどうしてもこの人に!という人気声優がいて、制作側は、原作者がそこまでいうならそのイメージなんだろうけど、とりあえずその人を含めて、何人か声を出してもらって実際に聴いてみようという、成立経緯がちょっとだけ特別なオーディションだった。
そのときスタジオに来てもらったのは四人。
ひとりは、原作者推し。
ふたりは、音響監督推し
ひとりは、シナリオライター推し
監督は、具体的なイメージがないから、声を聴いて意見を述べるという方針。
原作から著名なシーンを抜き出して、オーディション用の原稿を用意した。
ブースに入ってもらうのはもちろんひとりづつだけれど、四人とも一緒にスタジオに来てもらっていた。
さて、実際に声を出してもらうと、原作者推しの方、もう自分でイメージを固めてきているらしく、安定した演技。
でも、人気になった役柄から遠く離れたイメージのお芝居だった。
さすがに原作者も、これじゃないと思った模様。
オーディションには原作者の意向をまっこう否定する意図はなく、その人が合うならそれでいいけど、一応、他の人のイメージも聴いてもらおうよというのが現場の雰囲気だった。
ブースのこっち側で、監督以下微妙な空気。
「こういうイメージですか?」
「いや、ちょっと…」
「もう少し、低めにしてもらいましょうか」
「そうですね」
こっち側の意見をまとめてブースの中に伝える。
『わかりました』と返事が来たので、REC。
でも、同じ芝居をしてくる。
結果、原作者もイメージとだいぶ違うので他の方でということになった。
あのとき、あの役者さんは「この演技以外では受かりたくないし、自分のプランを変えるくらいならこの役はいらない!」とでも思っていたんだろうか…
ときどきこのときのことを思い出すのは、もうあれから十年以上経っているけど、その方がまだまだ第一線で活躍を続けていて、記事などを見かけるからなのであった。
キャストは音響監督推しなうちのひとりに決まった。
じつはあれ以来、原作者推しな方とはご縁がない(^^;
あ、別な音響監督の結婚式で一緒になったことがあったか。でも仕事では、オーディションでも会う機会がない。
クリスマスになると、ああ、あれはクリスマスだったなぁと(^^;